信託監督人等事後支援の必要性
- 公開日:
- 更新日:
家族信託では、信託監督人、受益者代理人、受託者アドバイザーと、信託契約後の事後支援の形が3種あります。こちらでは、そもそも、なぜ費用を払ってまで事後の支援が必要なのかと、3種の事後支援の違い、信託先生が、何故信託監督人としての事後支援としているかについてご説明致します。なお、一部、私見を含みます。
少々長く、難しい内容を含みますので、要素のみ理解されたい方は、まとめをご覧ください。
信託契約後の事後支援の必要性
家族信託の仕組みは、平成19年施行の改正信託法に基づきます。本記事執筆年が2022年ですので、誕生からたったの15年の法律に基づくものということです。
法律というのは、それのみで完璧な仕組みが出来上がっているものではなく、あくまで、ルールが定められているのみです。そのため、「こうしたケースが生じた場合はどうなるか」、「このルールの意味はどういうことか」といった、ルールの解釈の問題やそもそも具体的な記載がないといった問題が生じます。これを解決していくには、長い時間を掛けて運用がされていく必要があります。
つまり、歴史が浅い法律に基づく家族信託の仕組みは、どうなるか分からない部分が多分にあるということです。これが、信託契約後に、事後支援が必要となる大きな理由の一つです。
信託契約書は修正が必要になることがある
具体的には、判例構築や法改正、税法改正、関連通達、先例、銀行実務の変化といった形で、信託契約時点では、適切で問題のない内容であったものが、数年後には、問題が生じてしまうといったことが生じ得ます。
例えば、ほんの数年前には、当時の著名な専門家が、家族信託を使えば、遺留分の問題を回避できるといった見解を広め、これを大手税理士法人等が専門家へ更に拡散、各専門家のホームページ上でも、遺留分を回避できるといった記載が目立った時期がありました。しかしながら、今ではこの見解は否定されており、遺留分対策にはならないというのが実務の取り扱いとなっています。このことを知らずに相続が発生してしまっていたら如何でしょうか。
こうした問題が、家族信託にはあるのです。そのため、最新の情報を取得し、契約書のモニタリングを行い、必要に応じて契約書の修正作業を行う必要があります。
受託者実務支援の必要性
受託者は、信託法及び信託契約に従ってその業務を行う必要があります。後見制度の場合、家庭裁判所や後見監督人が、後見人業務の指導・相談相手となってくれるのですが、家族信託では、こうした関与が原則ありません。家族だからといって、うやむやな管理をすることは、分別管理や善管注意といった義務に反することとなります。親子であっても、他人の財産として管理することを求められるのが家族信託なのです。では、具体的にどのように管理すれば良いのか。作成すべき会計資料とはどのようなものか。こうした、家族信託の運用上どうすれば良いのかといったことを、相談出来る相手が必要となります。
受託者の不正・不適切な財産管理の抑止
先にも述べましたが、後見制度と異なり、家族信託では、裁判所や監督人の関与が原則としてありません。裁判所等の関与のある後見制度ですら、後見人による横領や不適切な管理は後を絶えない状態にあります。
多くの家族信託は、認知症等判断能力の減退・喪失に伴う資産凍結対策として行われます。受益者が受託者を監督し、不正があれば解任等をしていく建付けなのですが、受益者の判断能力が減退・喪失している場合、適切な財産管理を受託者が行っているかのチェックは出来ません。受託者は、誰の監視もない状態で、他人の財産が手元にある状態となるわけです。
受託者の監視機能は、受託者を守る意味もあります。監視機能があることで、適切な管理が担保され、他の相続人からあらぬ疑いを掛けられないという効果も期待できるでしょう。